体質的素因減額の場合

体質的素因減額の場合の具体例、判例の紹介

 

● 素因減額について

被害者の体質・持病等の身体的な特徴が、損害の発生や拡大に影響している場合、損害額の算定に当たって、この被害者の身体的特徴を考慮することができるのでしょうか。

被害者の身体的な特徴は「被害者の過失」ではありませんが、損害を公平に分担するという考え方は過失相殺と共通しているために、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の体質的な原因(=素因(そいん)といいます。)を理由として減額することができると考えられています。

素因に関する判決として、最高裁平成4年6月25日判決(民集46巻4号400頁)があります。この判決は、交通事故の1ヶ月前に自動車内でエンジンをかけたまま仮眠中に一酸化炭素中毒にかかり入院した被害者(個人タクシーの運転手)が、高速道路を走行中に加害者に追突されて頭部打撲傷を負い、精神障害を発症して交通事故の3年後に死亡した事件で、被害者が事故後に精神障害を呈して死亡するに至ったのは、事故による頭部打撲傷のほか、事故前の一酸化炭素中毒もその原因となっていたとして、損害の5割を減額するのが相当としました。

 

● 素因減額がなされる場合

それでは、どのような場合に、身体的な素因を理由として素因減額がなされるのでしょうか。

人間は、誰でもそれぞれ身体的な特徴を有していますし、健康状態も別々です。完全に健康な人を基準として、そうとは言えない人が事故に遭った場合に、総じて賠償額を減額することは妥当ではありません。

身体的素因の考え方については、同じ日に出された結論の異なる2つの重要な判例があります。

 

● 首長判決

最高裁判所平成8年10月29日判決(交通民集29巻5号1272頁)は、平均的な人よりも首が長く、多少の頸椎不安定症がある被害者の事故について、「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」と判断しました。

同判決は、「極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。」と述べ、単なる身体的特徴については素因減額を導かないことを明らかにしました。

 

● 後縦靭帯骨化症の判決

最高裁平成8年10月29日判決(交通民集29巻5号1272頁)は、被害者が事故前から頸椎後縦靭帯骨化症にり患していたことが、治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与していた事案で、「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、 加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当り、民法722条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができる」として、素因減額を否定していた原審の判決を破棄しました。

 

● 身体的特徴か疾患か

以上の2つの判決から、身体的特徴については、素因減額の対象とはならず、被害者が事故前から疾患を持っていたと言える場合に限り、素因減額がなされるものと考えられます。

身体的特徴と疾患とは、連続的であると考えられ、完全に区別をすることはできませんが、加齢に伴って生じるものや、被害者の年齢の相当数の方が有しているものについては、素因減額が否定される傾向にあります。

例えば、高齢の被害者が骨粗鬆症になっていた場合や、経年性の脊柱管狭窄があった場合については、素因減額を否定した裁判例があります。

 

 

ポイント

体質的素因により損害賠償額が減額されるかどうかは、問題となる身体の形状が、「疾患」であるか否かがポイントである

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